フトモモスクラッチ2

 

 いけすかない奴だ、俺は佐倉良一(さくら りょういち)。何がいけすかない

かって言うと、同じジムの女の佐倉泰子(さくら やすこ)の事だ。兄弟でも

親戚でも無い。

 

俺の方が後にボクシングジムに入ったのは認める。先輩だって事を。でもジム

に入った時の挨拶で「同じ苗字じゃないか」とオーナーに言われた時のあの嫌そうな顔。

俺は確かに格好良くないし、うらなりだ。だからってあんな露骨に態度に表さな

くても良いじゃないか、それにジムに入会してからも妙に避けられている。

だから俺は今日爆発した。「どうです? 泰子さん。スパーしませんか?」と言

ってみた。「いや別に今はいいです……」ほら来た。でも今の俺は心の内で感情

が爆発してるんだ。

「あー、逃げるんですね泰子さん」

泰子の右の眉がピクッと上がった。

「やっぱり男相手じゃ勝てませんよねぇ」

ピクピクッと眉が上下する。

「まあ……そこまで言うなら」

予約が取れた。俺は手抜きせずにノックアウトするつもりでいた。

 

 思えば泰子は何を考えているのかわからない女だ。何も表情に現さない、鉄仮面

を被っているようにポーカーフェイスだ。俺はしゃくだと思っているが、可愛いかと

問われると可愛い。ひたすら髪を伸ばして腰まで有る。ボクシングには邪魔じゃないの

だろうか?

ある程度いい年になった女には出来ない髪型だ。年いくと大体パーマをかけたりする

しな、まあそれを考えたら若さゆえの髪型っていえばそうだな、まあ有りか。

 

俺は20だが背伸びして顎鬚なんかを生やしている。俺は本当に背伸びをしていたと思うよ。

 

さて、スパーリングが始まる。オーナーは「女の子相手だから無茶しないでよ」と言って

事務室へ入っていった。今日は誰もいない、貸切状態だ。

「カーンってゴングの音言えよ、そしたら始まりだ」

俺の言葉にまた不機嫌そうに(何で私が言うのか)とでも言いたげだ。

「じゃあ俺が言う、カーン」

そう言って電光石火、一撃のフックを泰子の頬にヒットさせた。

泰子が口から唾液を吐き出しながらも踏みとどまった。

これは連続でパンチを叩き込めば倒せるぞと俺は思った。

 

 

甘かった……。

 

泰子は強かった。最初の一撃は油断していただけなのだろう。俺のパンチはことごとくかわされ

俺の顔面にいやというほどパンチが叩き込まれた。

それでも俺は男としての意地でパンチを振りまくった、全部かわされてしまうのだけれども……。

「口だけ?」泰子がフッと笑う。

えっ……泰子はこんな顔と態度を出す時があるのか。サディスティックな……。

そう思いながらも俺は殴られる。マウスピースなんてとっくにはじき飛ばされてリングの片隅に

転がっている。

ドボッ

「ぐぉっ!」俺が苦悶の声を出すと泰子はにやりと笑う。

俺の考えていた泰子じゃない、俺が膝をつくと、「立ちなさいよ、まだやれるでしょ?」と言う。

寡黙で大人びていて……鉄仮面のはずが、ニヤリとした表情を浮かべている。

「立てないの?? もう終わり?」

泰子に言われて俺は立ち上がる。まだ試合が始まって少ししか経っていないじゃないか。

しかしインターバルが無いのはキツい(最初にどちらかがぶっ倒れるまでインターバル無しでと

俺が提案した)。泰子も息を荒くしているが俺よりは全然余裕がありそうだ。

「基礎がなってないからね、良一は」

良一……俺の事を呼び捨てかよと俺は憤慨しつつも少し興奮してしまった。

こいつは俺を彼氏のように呼びやがる、悪くないぞ、もっと言ってくれ……。いや、何を言っている

んだ俺は、このスパーに勝って泰子を見下してやるんだ。

しかし俺のパンチは当たらない。

俺の顔面に、ボディに、泰子のパンチは的確にヒットする。

 

 

 

 俺はだんだんどうでも良くなってきた。顔面を打たれた場合のパンチ酔いというのだろうか、顔面を

打たれると痛さよりぼーっと頭がなるものだ。パンチ酔いという。ボディは苦しいんだけどね。

ああ、俺は泰子に打たれてるんだ、気持ちいいな……と思えてきた。

何もかもどうでも良い。

俺は泰子に服従しても良いのかもしれない、そう思い始めていた。

顔面ばかりを殴られる。口の中が切れて血の味がする。

 

 

 

 ダンッ!

俺は仰向けに倒れた。

「ふー、やっと倒れたよ」

見上げる泰子の表情はどこか艶かしい。俺より年下とは思えなかった。

「服従しなさい」

そう確かに言われた。

「誰がお前なんかに……服従なんか」

俺は最期のプライドでダウンしたまま行った。

「ふーん」

俺の視界から泰子が消えた。

そして俺の首に柔らかい何かが巻かれた。

ギリッ!

巻かれているには変わらないがちょっと違うぞ、これは……。

これは首四の字じゃないのか……。

「は……反則」

「あら、レフリーなんていないでしょ? 誰が反則取るの? 服従したら許してあげる」

俺はなにも答えない。

暖かくしっとりして吸い付くような太腿を首に巻かれてそのままゆっくりと締め付けられる。

俺の後頭部に泰子のマ●コが密着していると思うと勃起してしまった。

そして女の太腿がこんなに柔らかいものかと興奮して勃起に拍車をかけた。

「ほら、締まるよ、白目剥いて気絶しちゃうよ?」

 

 ああ、何故女の腿はこんなに柔らかくも……胸もそうだがそれはまた別だ。

俺は落とされても良いと感じていた。スリーパーホールドのようにゴツゴツとした腕で締められる

のでは無く、暖かく柔らかく優しく、そして確実に締め上げる強さを持った太腿。

だんだん視界が狭くなって来る。

こんなに気持ちの良い意識の失い方が有るだろうか、俺はゆっくりと気絶した。

気絶しながら射精するのがわかった。

びゅくっ! どくっ! どくどくっ!

精液が出る度に脳に直接響くような快感が襲ってきてたまらなかった、たまらない快楽だった。

 

 

 

「……ういち……りょういち!」

頬をペチペチ叩かれて俺は起きた。

「ふぁっ」俺は間抜けな声を出して起きた。

「良一、五分位気絶してたよ」

泰子の声がする。もう俺を呼び捨てするのが定着したのか。

「俺、負けちまったのか」

「だって私、物心付いた頃から格闘技色々やらされてたもん」

「そうなのか、なんか莫迦にして悪かったな……」

俺は何故か妙に素直になれた。そして言った。

「付き合って……くれないか?」

何を言ってるんだ俺は、スパーに負けて精液ぶちまけて……」

「はははっ、いいよ、その代わり私がこういうキャラだっていう事は内緒ね」

「なん……で?」

「親が礼儀作法に厳しいから。だからお忍びで付き合うっていう事。

「そうか……ありがとう」

何故かほっとした。

「ただし」

「ただし?」

「女といって私を莫迦にしない事」

「あ、ああ」

「莫迦にするとまた太腿で締め上げて落としちゃうぞ」

どちらが年上か分からないまま俺は服従する形になった。

年下の女なんかに! とも思ったが

まんざらでも無いなと俺は少し吹き出して笑った。