俺の妹ボッコボコ

 

非常に久しぶりだが明日菜の兄です。今日もいつものように妹の明日菜の試合を観戦しております。

ここは地下ボクシング場。詳しくはブログのカテゴリーの「俺の妹ボッコボコ」を一通り

一読願いたい。

何よりも楽しみなのはここで出される弁当だ。毎回飽きさせない。

こうやってタダで弁当を食えるのは明日菜が選手で、俺がその身内だからだ。

今日は……カラスミの入った弁当か。濃厚のチーズのような感じで俺が大好きだ。

 

明日菜はとことん負けているのでいつになっても赤コーナーには立てない。

青コーナーの格下側にいる。

明日菜の妹の紗菜がセコンドに付いており、彼女の胸の内では今日も姉は負けるのだろうなと

いう思いが有った。

「お姉ちゃん、いつか勝てるって言ってたよね、今日がその日だよ!」

 

そう紗菜が応援するが、明日菜はリングの上でレフリーのルール説明で

相手と近くで向かい合ってガクガクと震えていた。

相手はロングヘアーの大人のフェロモンをプンプンに出している巨乳の女性だ。

ただ引き締まった筋肉質の体で、それだけでいかに鍛えているかわかる。

明日菜自身も今日は負けるなと思っていた。

それ故、ガクガクと震えているのだ。

「これはただじゃすまねぇ……」

明日菜が呟くと相手選手は言った。

「ただじゃ済まさない」

「ひぃっ」

明日菜は走って逃げて家に帰ろうと思ったが、そういう事をしてしまっては

次から試合に出してもらえなくなる。

負けても観客は喜ぶのでそれなりにお金は入るのだ。

明日菜は青コーナーでため息をつきながらゴングを待っている。

「ほら、お姉ちゃん、マウスピース」

紗菜が大きなマウスピースを明日菜の口元に差し出す。

相変わらずマウスピースはなかなか口に収まらない。

「もう、お姉ちゃん何でこんなに大きなマウスピースにいつもすんのさ」

「パンチ食らった時にダメージ軽減出きるから……」

そしてガポッと音がしてようやく明日菜の口の中にマウスピースが納まった。

そしてそれが合図のようにゴングが鳴る。

(そうだ、いくら筋肉質だと言ってもどこかに弱点があるはず!)

明日菜はそう思い込む事によって勢い良くリングの中央まで走り出る事が出来た。

相手選手はゆっくりと歩きながら明日菜に近寄る。

「た、大した自身っぷりじゃない?」

明日菜は震える声で言う。

そして相手選手が明日菜の前に仁王立ちになる。

「打ってみろ」

相手選手はそう言った。

「ええい!」

明日菜は相手選手の頬にフックを打ち込んだ。

顔を傾ける事によってダメージのほとんどが軽減された。

「何だ。その程度かお前は」

そう言いきった直後、相手選手がフックを売った。

 

ぐしゃっ……。

 

みずみずしい音を立てて明日菜の左頬にフックが突き刺さる。

「ぶぇっ……」

口とマウスピースの隙間から唾液が固まりになって吐き出された。

水打ちをしたかのようにビシャビシャとリングのマットの上へ唾液が叩きつけられる音が

した。

「うあぁぁぁぁぁ!」

明日菜はふらつきながらも相手選手のボディへパンチを叩き込んだ。

だがそれは突き刺さらなかった。

鎧でも着ているような固さが伝わってくるだけだった。

「非力だな」

相手選手のその言葉に明日菜は心が折れる寸前だった。

ぐしゃっ! ぐしゃっ!

右、左とフックが明日菜の顔面にめり込む。

「ぐぅっ!」

明日菜はダウンしかけたが足を踏ん張る。

「根性は有るようだが、それだけでは勝てない」

相手選手はそう言い、冷たい目を明日菜に向ける。

(こんなカード組まされるって私に負けろって言ってるようなものじゃない)

明日菜は憤りを感じた。

(全てをぶつけてやる!)

明日菜は再度フックを思い切り打つ。

しかし手応えは無かった。

 

ぐじゅっ。

 

桃のような果実を握りつぶしたような音が鳴り響いた。

本気を出したであろう相手選手のストレートが明日菜の顔面にぶち込まれた。

明日菜がのけぞり、口からはマウスピースが吐き出された。

唾液が口からピザのチーズのように伸びる。

 

ズダン!

 

明日菜がダウンをしてマットの上で体をバウンドさせる。

びたん!

マウスピースが唾液を散らしてマットの上を跳ねた。

びちょっ、びちょっ、びちょっ。

何度も肉厚な柔らかいシリコン製のマウスピースは形を歪に歪ませながらバウンドした。

その度に唾液が飛沫になって飛ぶ。跳ねた部分には唾液の水溜りが出来ていく。

レフリーがカウントを始める。

(あれ、私倒れた?)

頭がぼーっとする。

(今日は勝つって思ったんだから、立たなきゃ)

カウントが進む中気持ちが焦る。

「くっ、くっ!」

気力を入れて明日菜は立ち上がった。

「頑張り屋さんね」

相手選手が言う。

明日菜は何も答えずに構える。

口の端からは唾液が糸を引いてダラダラと落ちている。

「負けると解っているだろう。立ち上がらなければ良かったものを……だが

観客を楽しませるにはいいかもしれんな」

「何、上から目線で見てるのよ」

ゼーゼーと息を荒くしながら明日菜は言った。

そこで1ラウンドを終えるゴングが鳴った。

ヨロヨロと明日菜は青コーナーへ戻る。

「んもう、マウスピース位自分で拾ってきてよ」

紗菜が冷たく言う。

紗菜はリングの中央へ落ちている明日菜のマウスピースを拾いに行った。

手にとるとまだ生暖かい。歯に収まる窪みの部分に唾液がたっぷりと溜まっている。

「おっと」

紗菜の手からヌルヌルしているそれが滑り落ちる。

ビチャッ、ビチャッ。

跳ね回ってなかなか掴めない。

「もう、何でシリコン製にするんだか。ああ! ぐにゃぐにゃで汚いなぁ! 臭いし!」

紗菜はリングの中央で一人でキれている。

青コーナーへ戻る。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「何?」

「普通のマウスピースにしようよ、扱いにくくて」

「だから、シリコン製で肉厚の方がダメージを軽減しやすくなるんだ……って……」

相変わらず息を荒くしながら明日菜は答える。

「そうか、まあしょうがないけど」

「けど?」

「セコンドって大変よ?」

「……」

「大体何で自分の姉の唾まみれのモノを扱わなくちゃいけないのよ」

「……」

「いや以前にお姉ちゃんの吐き出した唾を顔面に受けた事あるけどさ、基本的に

臭い!」

「だから……好きでマウスピースしてるわけじゃないってば」

明日菜が顔を赤くする。

「でも今回の試合はマウスピース洗っちゃいけないんだよね」

「うん」

「後で売店に並ぶから唾まみれでないと意味が無いんだよね」

「そう、生活費になるんだから……」

 

話していると2ラウンド開始のゴングが鳴った。

「わあっ!」

紗菜は急いで無理やりマウスピースを明日菜の口にねじこんだ。

ぐじゅっと音をたてて見事にマウスピースは口にはまった。

 

このラウンドで明日菜は積極的に前に出る事をしなかった。

無駄に体力を使うより相手の攻略法を考えようとしてのことだった。

(裏拳がある!)

裏拳はここではルール違反では無い。

明日菜はそこで一気に相手選手に近寄る。

「殴られに来たか」

ストレートを打ち込みに来る。

明日菜はそれをかわして思い切りからだをねじる。

そして裏拳を叩き込んだ。

 

バンッ!

 

いともたやすくその拳は受け止められた。

「甘い、死角をついた気でもいたか」

 

ぐぶじゅっ!

 

明日菜の顔面にパンチが入る。

「私はそういうこそくな手が大嫌いだ」

相手選手はそう言いながら明日菜を殴り続ける。

明日菜の両手はだらんと垂れ下がり、顔面をめった打ちにされる。

じきに吐き出される唾液は血へとかわり、顔面は腫れあがってくる。

「倒れると楽になるぞ」

相手選手はそう言いながらも手を止めない。

「ぶほっ」

明日菜は血と唾液の混じった塊を吐き出し、それが相手選手の顔面にビチャリと当たった。

「いい具合だ。フィニッシュにゲロでも履くか?」

 

どぶぉっ!

 

明日菜のボディにパンチが打ち込まれて、相手選手のグローブがめり込む。

 

「うぶっ……」

明日菜は口を膨らませる。

 

「うげぇっ!」

血と唾液にまみれたマウスピースがまず飛び出し、それに続いて胃液が大量に吐き出された。

ビチャビチャという音が派手に会場に響き渡る。

「うげっ、げぇっ!」

何度も体をくの字に曲げながら明日菜は嘔吐を続けた。

「弱いのは弱いが、まあ頑張った方だな」

相手選手は思い切り明日菜の顔面の真正面にストレートを打った。

 

ぐっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!

 

血、唾液、胃液の全てが派手に飛び散る。

明日菜の体は宙に浮き、リングの上に叩きつけられた。

レフリーはカウントを始めたが、明日菜がごぼごぼと泡を吹き出したので

試合中止にした。

マットの上の明日菜は顔面を醜く腫らせてボディに痣を作り

そのような状態でビクンビクンと痙攣している。

「そうなるよね〜やっぱり」

紗菜はため息をついてそう呟いた。

 

さて、今日の弁当もなかなかであった為に試合をあまり見ていなかったが……。

担架で運ばれているのは明日菜か。今日も負けたのだな。

兄としては残念だが、次に期待しよう。

 

 

 

 

次の弁当に。